その他
『見返り美人』
0.
『第四の壁』とは、もともと演劇において舞台と観客席とのあいだに存在すると仮定される架空の壁のことを指す。登場人物が観客に語りかける等、この壁の向こう側を認識しているかのように振る舞うことは「第四の壁を破る」と呼ばれる。このような表現はゲームにも存在し(いわゆる『メタ演出』)、ゲーム内のキャラクターが画面の外を意識しているような描写は珍しくない。カービィシリーズも例外ではない。カービィが画面にぶつかる画は有名であろう。
『カービィのエアライダー』にも、ライダーが第四の壁を意識しているかのように見える数多くの場面があるが、僕がその最たる瞬間と感じるのは「ナイス着地」時である。前回は「ライダーがいかにゲームに勝つことを意識していないか」を論じ、コックカワサキ(とグーイ)を讃えた。今回はそういった主観を一旦脇に置いて、できるだけ同一の条件のもとで、21ライダーのナイス着地について見てゆく。なお、この記事はエアライダーの攻略にはなにも役に立たない。
1.
『カービィのエアライダー』は三人称視点のゲームであり、ライダーはプレイヤーに背を向けている。「ナイス着地」、すなわちエアライドマシンが地面と平行に着地すると、マシンの周囲に緑色のリングが現れてマシンが加速する。このときライダーは(運転中なのに)わざわざ身体や顔を画面側へ向けて、喜びを示すような表情やジェスチャーでアピールする。
この所作には少々奇妙なところがある。ゲームをプレイしているあいだ、プレイヤーはしばしばライダーと一体となった感覚でマシンを操作している。ところがナイス着地直後には、それまで分身と思っていたライダーが、今度はこちら側へ身体を向けるのである。もっとも、ライダーが画面側を向くことと、プレイヤーを見ることとは同じではない。実際、その見返り方はライダーによってかなり異なる。
この捉え方には異論があるかもしれない。ライダーの性能や個性について語るとき、プレイヤーは「キービィ」「ドゥ」のようにライダーを名指しで呼ぶ。その意味では、ライダーとプレイヤーとは明らかに別の存在である。また、ゲームにおいて重要なのはナイス着地によって加速するという仕様そのものであり、細かい所作はどうでもいいという人もいるだろう。僕はそうは思いません。そのライダーのどこが秀でているかではなく、どのような人間臭さのようなものがあるかのほうがより重要なのだ。
2.
繰り返しになるが、この記事では「ナイス着地時にライダーが進行方向から身体または顔を後方へ向ける動作」を「見返り」と呼ぶ。これは菱川師宣氏作《見返り美人図》にあやかった命名である。
これから21ライダーの見返りについて見てゆくが、比較のため撮影条件は統一する。撮影場所はおためし空間、マシンはライトスターとし、ライダーには帽子を被せず、通常カラーのみとする。撮影時にはカメラをいっぱいまで引いたのち、ライダーとマシンを画面中央に合わせ、いっぱいまでズームインする(画面中央に合わせる処理のため、実際にはカメラ目線でも画像ではやや上方を向いているように見えるライダーがいるかもしれない)。なおSP発動中に見返るライダーがいるが、今回は対象外とする。
3.
以下、21ライダーの見返りの特徴について個別に述べる。
カービィは身体を大きく左後方へひねり、左手を高く掲げる。両眼が見えるほど顔をカメラ側へ向け、口を大きく開けているので、表情は明瞭に嬉しそうである。また、見返りの際にはライトスターから身体を浮かせており、顔の向きを変えるだけでなく、全身を使ってナイス着地への喜びを表現している。
デデデ大王は身体を左後方へ大きくひねり、左腕を上げて握り拳を掲げる。口を大きく開け、眼も見開いており、ナイス着地への喜びが明瞭に表れている。顔はカメラ側へ向けられているが、視線はやや上方を向いている。
メタナイトは身体を左後方へ大きくひねり、左拳を高く掲げる。顔はカメラ側へ向けられており、視線はカメラ方向を向いているように見える。仮面により口元が隠れているため、表情そのものから喜びを読み取ることは難しいが、掲げた拳や大きく広がったマントを含む全身の動作によって、ナイス着地に対する肯定的な反応を示している。
ワドルディは身体を大きく左後方へ向け、ライトスターから身体を浮かせて左手を上げる。顔はカメラ側へ向けられているが、両眼を閉じているため、視線の方向を定めることはできない。口は表現されていないものの、弧状に閉じた眼によって嬉しそうな表情が示されている。
バンダナワドルディは身体を左後方へ向け、ライトスターから身体を浮かせて左手を上げる。顔はカメラ側を向いているが、視線はやや上方へ向けられている。口の表現はなく、通常のワドルディとは異なり眼を開いたまま見返る。表情からは喜びよりも勇ましさが感じられる。左手は掲げられ、右手に持った槍は側方へ大きく伸ばされており、武器を含めた全身で大きなポーズをとる。
ワドルドゥは身体を左後方へ向け、ライトスターから身体を浮かせて左手を掲げる。身体の正面にある大きな単眼もほぼカメラ側へ向けられている。口は存在せず、眼の形状にも大きな変化はみられないため、顔から感情を読み取ることは難しい。
コックカワサキは上体を大きく左後方へひねり、左手を高く掲げる。顔はカメラ側へ向けられ、両眼を開いたまま、口を大きく開けて笑っている。足元をライトスター付近に残しながら上体を大きく反らせており、身体全体を浮かせるカービィやワドルディとは異なる見返り方をする。
ナックルジョーは、上体を左後方へ大きく反らせ、両腕、特に左腕を掲げて拳を握る。顔は画面側に現れるものの、頭部と視線はいずれも斜め上方へ向けられており、カメラを直接見ることはない。口は小さく開いており口角は上がっている。
リックは身体を左後方へ向けながら顔を大きく上方へ反らし、左前足を掲げて掌をこちらに見せる。眼も上方を向いており、カメラとは視線を合わせない。口はわずかに開いている。身体の正面は画面側に現れるものの、顔と視線はいずれも上方を向くため、「こちらを見る」というより、上を仰ぎながら見返る姿勢となっている。
グーイは身体全体をライトスターから大きく浮かせ、左に振り向いて顔をカメラ側へ向ける。口を大きく開き、舌を長く上方へ伸ばす。両眼も画面側に現れるが、左右の瞳は異なる方向を向いており、カメラ目線とは言いにくい。四肢をもたないため、見返りの動作はほぼ顔と舌だけによって構成される。
キャピィは身体を浮かせながら右に振り向いて画面側へ向け、右手でキノコのカサを高く掲げる。両眼と口はいずれも開いている。顔はほぼ正面から見えるものの、眼や口には感情表現がない。キノコを掲げる動作が見返りのシルエットを大きく特徴づけている。
ロッキーはライトスターから身体を浮かせ、左斜め後ろを向く。両眼は弧状に閉じており、口の表現もないため、視線の方向を定めることはできない。閉じた眼によって、表情そのものは明瞭に嬉しそうに見える。
スカーフィは身体全体を大きく浮かせ、左に振り向いて顔をカメラ側へ向ける。両眼を開き、口も大きく開けている。四肢をもたないため、身体の向きと表情の変化だけでナイス着地への反応を示す。
スターマンは左に振り向いて身体を大きくのけぞらせるように画面側へ向け、左手を掲げる。スターマンの顔面には眼や口などの造形が存在しないため、一見すると背面を向けているようにも見えるが、実際には顔面側をカメラへ向けている。したがって顔の向きは他のライダーと共通する一方、視線の方向を論じることはできない。
ロロロ&ラララは2人が内向きにこちらを振り返り、相手がいる側とは反対側の(=外側の)拳を掲げる。先頭のライダーが身体を大きく浮かせる。両者とも眼は開いているが、寄り目であるためカメラ方向を向いているように見えない。
マルクは左に振り向き身体を大きく反らせて浮き上がり、右足を高く上げる。顔も画面側に現れるものの、頭部と眼は上方へ向けられている。口は大きく開いている。大きな帽子を含めて身体全体が弧を描くような、非常に動きの大きな見返りとなっている。
ドロッチェは右に振り返って身体を右手を頭部付近へ掲げ、鉤爪をアピールする。顔は横向きに近く、片眼が明瞭に見える。カメラを正面から見る動作ではなく、横顔を見せながら振り返る。赤いマントも大きく広がっており、身体の回転が視覚的に強調されている。
マホロアは左に振り返って身体を後方へ反らし、両腕を左右へ大きく広げる。眼は弧状に閉じており、したがって視線の方向は定められない。顔の下半分は衣服によって隠れているため口も見えないが、閉じた眼と大きく開いた両腕によって肯定的な反応が表現されているように見える。
タランザは左に振り返りライトスターから大きく浮き上がり、複数の腕を広げながら身体を画面側へ向ける。眼は白く閉じられ、口は大きく開いている。腕の本数が多いため、他のライダー以上に身体の外側へ広がる動作となっている。視線によるプレイヤーとの関係は成立しない一方、顔そのものは画面側へ提示されている。
スージーは身体を右斜め後ろへ向け、両腕を左右に広げる。顔もこちら側を向くが、青い眼には明瞭な瞳孔がなく、視線方向を厳密に判断することは難しい。口の表現もないため、顔面そのものの変化より、腕を開いたポーズによってナイス着地への反応を示している。
ノワールデデデは身体を大きく右方向にひねり、右腕をカメラ方向に掲げガッツポーズをとる。顔の大部分は装備によって隠れており、確認できる眼は発光しているが、視線はカメラ方向を直視している。衣装やエフェクトが身体の周囲へ大きく広がり、21人の中でもシルエットの変化が特に大きい。
4.
以上の21ライダーを概観した。見返る方向には明瞭な偏りがある。ロロロ&ラララを除く20ライダーのうち、16ライダーが左、4ライダーが右に振り返る。右に振り返るのはキャピィ、ドロッチェ、スージー、ノワールデデデだ。左に振り返るライダーでは左手を掲げる例も多い。一方、右に振り返る4ライダーには、なぜ右向きが与えられているのかという明瞭な共通点は、少なくとも今回の観察からは見出せなかった。この左右差がキャラクターごとの表現として意図されたものなのか、モーション制作上の事情によるものなのかはわからない。
また、「見返り」と呼んではいるものの、ライダーが必ずしもプレイヤーを見ているわけではない。カメラに近い方向へ視線を向けるライダーがいる一方、デデデ大王やバンダナワドルディのようにやや上方を見る者、ナックルジョー、リック、マルクのように明らかに上を向く者もいる。ワドルディ、ロッキー、マホロア、タランザについては喜びの表現の付加のために眼を閉じており、そもそも視線の方向を論じることができない。ワドルドゥやスージーでは眼の造形上、視線を厳密に判断しにくく、スターマンに至っては眼そのものが存在しない。グーイは両眼が別々の方向を向いている。
したがって、ナイス着地時の所作を単純に「ライダーがプレイヤーを見る動作」とみなすことは難しい。より共通しているのは、普段はプレイヤーに背を向けているライダーが、ナイス着地を契機として身体や顔の正面側を画面へ見せることである。ライダーは必ずしもこちらを見てはいない。しかし、こちらに見られる姿勢をとる。この点では、「見返り」と「カメラ目線」は区別したほうがよい。
喜びの表し方にも差がある。カービィやコックカワサキのように口を大きく開けて笑う者がいる一方、ワドルディやロッキーは眼を閉じ、メタナイトやワドルドゥでは顔そのものから感情を判断することが難しい。ナックルジョーは両拳を握り、バンダナワドルディは槍を大きく伸ばし、タランザは多数の腕を広げる。それぞれが同じナイス着地に反応しているにもかかわらず、その反応は同じ「喜び」のモーションを体格に合わせて移植しただけのものには見えない。少なくとも画面上では、各ライダーの身体的特徴や普段の印象を損なわない形で、それぞれ異なる所作として現れている。
5.
ナイス着地による加速だけをゲーム上の機能とみなせば、ライダーが後ろを向く必要はない。緑色のリングだけが現れても、ゲームのルール自体は成立する。それにもかかわらず、21ライダーにはそれぞれ異なる見返りが用意されている。この、攻略には関係しない差異こそが、ライダーを単なる性能値の異なる駒ではなく、別々の存在として感じさせる一因なのだと思う。
同じことは、レース開始時、リザルト表示時、リタイア時などの所作にもいえる。『カービィのエアライダー』のライダーたちは、メタ発言をしてプレイヤーに直接語りかけるほど露骨に第四の壁を破るわけではない。その一方で、画面のこちら側に誰かがいることは知っているかのように振る舞う。しかも、その視線やジェスチャーの対象は必ずしもプレイヤー一人に定まっておらず、むしろこちら側にいる漠然とした観客へ向けられているようにも見える。第四の壁を意識しながら、そこを飛び越えてはこない。その絶妙な距離感の中で、ライダーたちの表情付けはなされている。こうした所作がなければ、僕は『カービィのエアライダー』にこれほど惹かれることはなかっただろう。
皆さんのお気に入りの見返りは誰ですか。